DeepSeekショックは終わらない。AI界の「眠れる獅子」中国の戦略をAIエンジニアが徹底解説(ep.16)
おちつきAIラジオ 第16回(EP.016)/配信日: 2025.11.14/再生時間: 01:01:55
この回の概要
今回は中国のAI企業DeepSeekを深掘りする回です。DeepSeekがなぜ一発屋ではなく、今もAI業界にとって重要な存在なのか、その技術的な強みと運営構造、そして利用する上でのリスクの両方を丁寧に解説しています。聴くと、2025年1月のDeepSeekショックの正体、DeepSeekが小さなモデルで高性能を実現できる理由、利用する上での注意点、そして今後また技術的なジャンプが起きる可能性まで理解できます。
まず取り上げられるのは2025年1月に起きたDeepSeekショックです。DeepSeekが新モデルR1を発表したことでNVIDIAの株価が急落し、時価総額で約91兆円が失われたという出来事でした。しぶちょーは、AIの性能はモデルサイズ・データ量・計算量で決まるという「スケーリング則」の常識に対し、DeepSeekがアルゴリズムの効率化やモデルの小型化でも性能を上げられることを示したことが最大のインパクトだったと説明します。この点についてはAnthropicのCEOも、計算資源の増強だけでなくアルゴリズムの効率化がそれと同じくらい重要だと示した出来事だとコメントしていたと紹介されます。
DeepSeekの成り立ちも語られます。運営会社は中国の深圳を拠点とし、社長のリャン・ウェンフォンはもともとクオンツ投資ファンド「ハイフライヤー」を経営していた人物で、DeepSeekはそのAI研究部門が独立してできた会社だと紹介されます。親会社の投資利益で運営されているため外部投資家の意向に縛られず、独自の技術開発を進められる点が特徴です。技術面では、トランスフォーマーを改良した独自アーキテクチャのマルチヘッドレイテントアテンションや、必要な部分だけを動かすエキスパートアーキテクチャなどにより、少ないリソースで高い性能を実現していると説明されます。こうした効率化路線は、アメリカによる対中国GPU輸出制限で高性能GPUが入手できなかった事情が背景にあると語られます。番組内では、社員数が2025年1月時点で200人程度とされるDeepSeekに対し、OpenAIは約7400人、Anthropicは約2300人と紹介され、少人数でこれだけの成果を出している点も驚きとして語られます。また直近では、画像認識の技術を使って処理するトークン数を抑える「DeepSeek OCR」を発表するなど、一貫して省リソースを追求する姿勢が続いていることも紹介されます。
一方でDeepSeekには明確なリスクもあると指摘されます。データが中国国内のサーバーに送られ中国当局がアクセスできる構造になっているため、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・EU・台湾・日本・韓国など各国政府機関で使用が禁止されていること、米国の調査機関の報告でジェイルブレイク攻撃の突破率が米国製モデルの約8%に対しDeepSeekは約94%に達するとされる脆弱性、政治的にセンシティブな話題に対するリアルタイムの検閲などが紹介されます。
DeepSeekの戦略面では、モデルの重みやアーキテクチャを全面公開するオープンソース戦略が最大の特徴だと語られます。しぶちょーはこれを、日本の工作機械業界でファナックが制御装置を一社に集約したことで技術が急速に洗練され、各社が個別開発を行っていたアメリカを追い抜いた歴史や、クレジットカード文化がなかった中国で電子マネーが一気に普及したリープフロッグ現象になぞらえ、国家戦略として一つの技術に集中投資することの強さを説明します。DeepSeekは株式を発行していない非上場企業のため直接の株式投資はできないことにも触れつつ、次に大きな技術革新が起きればNVIDIAなど半導体関連銘柄の株価に再び影響が及ぶ可能性があるという投資的な視点での雑談も交わされます。
番組の終盤では、OpenAIのAPI出力を無断で学習に使い性能を高めた疑い、いわゆる知識蒸留の疑惑についても触れられます。API利用規約で禁止されている行為とされるものの、決定的な証拠はないため疑惑の域を出ていないと説明されます。こうした点も含めつつ、DeepSeekは今後も国家の後押しを受けて新たな技術的ジャンプを起こす可能性が高いとまとめられます。しぶちょーは、中国をステレオタイプで見くびらずに実力を正しく把握しておくことの大切さを強調し、次の技術的な飛躍に備えておこうと呼びかけて締めくくられます。
目次(タイムスタンプ)
- 00:00 オープニング
- 00:39 今回のテーマ「DeepSeekをディープに知ろう」
- 01:50 DeepSeekは「AI界のゲームチェンジャー」
- 02:41 NVIDIAを直撃した「DeepSeekショック」とは?
- 04:31 AI開発の常識「スケール則」と札束での殴り合い
- 07:16 スケール則を覆すDeepSeekの「効率化」アプローチ
- 08:35 アメ車vsハイブリッド車?AI開発の燃費競争
- 09:23 DeepSeekってどんな会社?親会社は投資ファンド
- 12:39 少ないリソースで高性能を出す「独自技術」とは?
- 14:22 脳内に小さな脳?「混合エキスパートアーキテクチャ」
- 15:35 なぜ効率化が必須だった?アメリカのGPU輸出規制
- 18:08 中国特有のリスク。データは全て政府当局の手に?
- 20:28 危険な回答をしがち?DeepSeekの「脆弱性」
- 24:19 中国政府の意向を反映?リアルタイム「検閲」の実態
- 25:38 なぜ儲けない?親会社の利益で運営するビジネスモデル
- 29:04 DeepSeek最大の強み「オープンソース戦略」
- 32:04 なぜオープンソースが進化を加速させるのか?
- 34:04 日本の製造業も同じ戦略でアメリカに勝った?
- 37:48 クレカを飛ばして電子決済へ「リープフロッグ現象」
- 41:15 DeepSeekは中国の国家戦略。AIで世界を取る?
- 44:47 中国を「安かろう悪かろう」と見るのは危険
- 47:15 日本はAI開発でどう戦うべきか?
- 50:32 DeepSeekは「ただもんじゃない」次の衝撃に備えよ
- 53:42 OpenAIのデータを不正利用?「知識蒸留」疑惑
- 56:16 札束の殴り合いに「創意工夫」で挑むDeepSeek
- 59:06 【告知】初の公開収録イベントを原宿ハラカドで開催!
- 61:45 エンディング
今回の要チェックキーワード
- DeepSeekショック(DeepSeek Shock)
- 中国企業DeepSeekが高性能AIモデルを低コストで実現し、世界のAI業界や株式市場に大きな衝撃を与えた現象。技術力とコスト最適化が評価され、「AI開発の常識が変わる」と注目された。
- ジェイルブレイク(Jailbreak)
- AIに意図しない動作をさせるため、ルールや制限を回避させるテクニックの総称。禁止内容を遠回りに聞くなど、抜け道を突いてAIを騙す行為。
- プロンプトインジェクション(Prompt Injection)
- AIに外部から仕込んだ指示(命令文)を紛れ込ませ、本来の動作を上書き・乗っ取る攻撃手法。RAGやチャットボットのセキュリティ上の大きな課題となっている。
- 知識蒸留(Knowledge Distillation)
- 大きなモデル(教師モデル)の知識を小さなモデル(生徒モデル)に圧縮して伝える手法。性能を保ちながら軽量化できるため、スマホやエッジ環境でのAIに使われる。
- マルチヘッド・レイヤーアテンション(Multi-Head Attention)
- Transformerの中核技術。複数の“視点”で同時に入力を捉えることで、文脈や関係性をより正確に理解できるようにする仕組み。
- 混合エキスパートアーキテクチャ(Mixture of Experts / MoE)
- 複数の「専門家ネットワーク」を用意し、入力に応じて最適な一部だけを使って処理する構造。計算量を抑えつつ大規模モデル並みの性能を実現できる。
- スケール則(Scaling Laws)
- データ量・パラメータ数・計算量を増やすほど、モデル性能がどのように向上するかを示す法則。GPTなどの巨大モデルは、この法則をもとに設計されている。 —----------------------------
この回でわかること(Q&A)
2025年1月のDeepSeekショックとは何ですか?
DeepSeekが新モデルR1を発表したことでGPUの必要性への見方が変わり、NVIDIAの株価が急落して時価総額で約91兆円が失われた出来事です。少ないリソースでも高性能なモデルが作れることを示したことが要因とされています。
DeepSeekはなぜ少ないリソースで高性能なモデルを作れるのですか?
マルチヘッドレイテントアテンションやエキスパートアーキテクチャといった独自技術で計算効率を高めているためです。番組では、アメリカの対中国GPU輸出制限で高性能GPUが入手できなかった事情が、この効率化路線を後押ししたと説明されています。
DeepSeekを使う上でのリスクは何ですか?
データが中国国内のサーバーに送られ中国当局がアクセスできる構造になっているため、アメリカや日本を含む各国の政府機関では使用が禁止されています。また、米国の調査機関の報告では、ジェイルブレイク攻撃への耐性が米国製モデルより大幅に低いとされています。
DeepSeekはどんな会社が運営していますか?
中国深圳を拠点とする企業で、社長のリャン・ウェンフォンはもともとクオンツ投資ファンド「ハイフライヤー」を経営していた人物です。DeepSeekはそのAI研究部門が独立してできた会社で、親会社の投資利益によって運営されています。
DeepSeekはなぜモデルを無料で公開するオープンソース戦略を取っているのですか?
中国国内の技術者からのフィードバックを取り込みながら急速にモデルを進化させるためです。番組では、日本の工作機械業界でファナックが技術を一社に集約して急成長した事例になぞらえて説明されています。
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「おちつきAIラジオ」は、日々のAIトピックを現役のAIエンジニア(しぶちょー)と元刑事のポッドキャストプロデューサー(かねりん)がやさしく解説する対談番組です。